“想いを形にする”仕事~一人用囲炉裏の製作から
岡山の工務店、なんば建築工房では古民家リノベや日本建築の家づくりの合間にお客様からの小さなオーダーをいただくことがあります。
今回はそのひとつ、「一人で一杯やりたい」というお客様の言葉から生まれた、一人用の囲炉裏裏(いろりうら)をご紹介します。
古民家の床板を再生した小さなSDGs

今回のオーダーは、古材ギャラリーの見学会の時に一人用の囲炉裏の製作をして欲しいというご要望から始まりました。
お客様からの要望は
•一人で座卓式の囲炉裏が欲しい
•お酒を楽しめる囲炉裏で焼き物をしながら
•職人の手仕事となんばさんの木を使った雰囲気で
とのことでした。
そして、素材に使ったのは空き家古民家から取り出した縁側の床板。
長年、風や雨、季節の移ろいを見つめてきた板に、もう一度息を吹き込み再生していきます。
こうした“再生”は単なるリユースではなく、木に宿る時間と人の想いを次へつなぐ仕事です。
これも、私たちなりのSDGsの形だと思っています。
超アナログなスケッチから生まれる職人の手仕事

設計図は私の手描きスケッチです。笑
普段バタバタと地域のことや家づくりをしているため図面というほど立派なものではありませんが、お客様がのイメージや使い勝手を創造(≠想像)しながら、妄想を膨らませました。
そこに込めたイメージを工場長の三嶋大工が丁寧に読み取り、形にしてくれました。
木口の面取り、引き出しのすべり、蓋の取外しまで、
どこを触れても手になじむ、職人の「丁寧な手の跡」が感じられます。
こういう“細部の美しさ”こそが、長く愛される理由になるのだと思います。
言葉の奥にある“想い”を汲み取る

今回のオーダーは「一人で一杯やりたい」という一言から始まりました。
その言葉を聞いて、私は勝手に妄想を膨らませます。
~休みの前の夜。~
1週間頑張ったご褒美に、旨い酒とあてを買ってきて、
月を眺めながらバルコニーで一杯。
そんな時間を想像すると、自然と作りたい形が見えてくるのです。
囲炉裏は小さめで、近くに置くと周囲が熱い。
熱燗ならいいが、ビールならぬるくなる。
それは嫌だな…と思い、木製のカップホルダーを作る。
買ってきたおつまみを床に置くのも味気ない。
だったら蓋をサイドに差し込んで“ちょっとした台”にしよう。
使う素材は、想いのこもった古材で。
そんな妄想の積み重ねが、形になっていきました。
一つひとつのパーツには理由があり、そこにはお客様の使う姿を想像する“時間”が込められています。
よく「仕事を楽しむことが大切」と言いますが、
私たちの仕事は“楽しむために作る”ものではありません。
本当に大切なのは、目の前のお客様の言葉の奥にある「想い」に心を寄せること。
どう使うのか、どんな時間を過ごしたいのか。
その一瞬を想像して、手を動かす。
結果として、その過程が自然と楽しくなる。
そうして生まれるものこそ、本当の“良いもの”だと感じます。
職人の感性がつなぐ“人と木の物語”



今回も、三嶋大工が楽しそうに作ってくれました。
小さな引き出しの並び、木目の流れ、手に伝わる温かさ。
「これで一杯やったら、旨いだろうな」と思わず笑ってしまうような仕上がりです。
お客様の想いを受け取り、職人が形にし、それをまたお客様が愛着を持って使ってくださる。
この循環こそが、ものづくりの本質であり、古民家再生にも通じる“人と木の物語”だと思います。



どんなに小さな仕事でも、そこに“想い”がある限り、私たちは全力で応えたい。
古材が再び命を宿し、お客様の暮らしを豊かにする。
そしてこれからも、人と木の物語をつなげていきたいと思います。