倉敷の古民家を未来へ─古民家鑑定士・正田社長に聞く「古民家とは?」
2025年で創業138年を迎える、なんば建築工房。
(一社)全国古民家再生協会 岡山第一支部の理事長であり、自身も古民家鑑定士として活動する正田順也社長に、古民家の定義と魅力、リノベ費用や物件選びの要点を伺いました。

正田 順也 (まさだ じゅんや)
大阪生まれの奈良育ち。大学進学をきっかけに岡山へ移住し、住宅業界歴は30年超。
職人の伝統技術を活かすため、古民家再生・空き家利活用・地域づくりに力を入れている。
(一社)全国古民家再生協会岡山第一支部 代表理事
(一社)全国空き家アドバイザー協議会 岡山県倉敷支部 事務局長
町おこし団体 下津井シービレッジプロジェクト 事務局長
古民家鑑定士インストラクター ほか
「古民家」とは何か
――そもそも「古民家」の定義ってあるんでしょうか。
正田「古民家鑑定士の資格講習でもはじめに学ぶ内容ですが、全国古民家再生協会の定義では、要点が二つあります。築50年以上であること、そして木造軸組みの伝統構法であることです。現代の住宅は鉄筋コンクリートの基礎が当たり前ですが、古民家は“石場建て”で、玉石や延べ石に柱を直接据えています。ここを見れば一目で分かりますね」
――基礎が石かコンクリートか。シンプルな見分け方ですね。
正田「そうですね。加えて、土壁と瓦屋根、そして通し貫(ぬき)や差し鴨居などの部材が複雑に噛み合い、地震が起きた際には建物全体で荷重を受け流す構造になっています。これが現代の工法との大きな違いです」

伝統構法の古民家の耐震性は?
――「壁が少ないから、古民家は地震に弱い」と聞いたことがありますが。
正田「現代の家とは、古民家は地震に対する考え方が違います。地震に対する方法は三つあって、耐震、免震、制振があります。現行の耐震基準は“壁量を増やして固くする”という、「耐震」の発想ですが、古民家は揺れを許容して、元に戻るという「免震」の発想で作られています。地震発生時には、柱と梁が柔軟に働き、地震エネルギーを分散させます(制振)。昔の瓦は土の上に乗っているだけなので、大きな揺れが発生した際は、自然に落ちて屋根を軽くし、倒壊を防いだりもしたそうです(免震)。制振と免震の考えで建てられているので、現代の耐震診断を行うと、基準に達しない、と評価されてしまうわけです」
- 耐震…強い建物で、地震に耐える
- 免震…あえて揺らすことで、地震の力を受け流す
- 制震…ダンパーなどで地震の揺れを吸収する
――現代では、古民家の補強はどのように行っているんでしょうか。
正田「石場建ての意匠を残しつつ、制振ダンパーを追加したり、要所に耐力壁を新設したりします。“伝統+最新技術”のハイブリッドですね。倉敷では文化財級の町並みも多いので、外観を崩さず安全性を高める工夫が欠かせません」

古民家の魅力──「おもてなしの間取り」
――正田社長が古民家に惚れ込んだきっかけは何でしたか。
正田「古民家は、まさに日本の住文化の象徴だと思うんです。私自身は団地育ちで畳の続き間に縁がなくて、初めて本格的な古民家に入ったときに衝撃を受けました。庭があって、一番良いところに客間がある。床の間に花を飾る所作も含め、日本人の“おもてなしDNA”が詰まっているなと。田の字型で自由度の高い間取りも特徴的ですね。冠婚葬祭・寄り合い・子どもの節句……暮らしとコミュニティが一体化した設計です。現代のリビングとは発想が違いますが、用途を限定しない自由度はリノベでも活きます」
リノベーション費用とプラン
――古民家を直すにあたって、どんなプランがあるんでしょうか。
正田「費用は建物の規模や状態によって大きく変わりますが、ざっくりと三段階くらいに分けられると思います」
プラン | 主な改修範囲 | 目安費用* |
---|---|---|
修繕 | 畳・壁・照明など内装中心 | 200〜500万円 |
リフォーム | 水回り刷新/一部断熱+耐震 | 1,000〜3,000万円 |
フルリノベーション | 屋根下地交換/全館断熱・耐震 | 3,000万円〜 |
* 延床面積や建物の状態によって大きく変動します
正田「たとえば、古民家カフェを開業するなら、内装のリフォームや修繕でも十分かもしれませんが、“終の住処”なら、命を守る耐震性能を、建築基準法レベルまで高めたいところです。また、断熱性能も合わせて高めることで省エネにもなり、寒暖差によって発生するヒートショックの対策にもなります」

物件選びで後悔しないために
――古民家を購入するにあたって、よくある失敗はありますか。
正田「雨漏りを放置したことで屋根下地が腐っている家は費用が跳ね上がります。屋根を一からやり直すと数百万円単位です。床下のシロアリ被害も同様ですね。“安いから”と即決する前に、必ずプロに建物の状態や、不動産価値の見立てをしてもらうことが大切です。診断は数十万円でも、リスク回避は数千万円の価値があります」
(一社)全国古民家再生協会と地域連携
―― (一社)全国古民家再生協会について教えてください。正田社長は協会理事としてどんな活動をしているんですか?
正田「(一社)全国古民家再生協会は国と連携する唯一の全国組織で、古民家の調査や空き家の利活用、教育啓発を行っています。安心、安全に古民家で暮らしていただくために、古民家の耐震・断熱に取り組んでおり、協会が実施する古民家総合鑑定を受けていただくことで、厳しい技術基準のある「リフォームかし保険」や、「フラット35」のローンが利用できます。
岡山でも行政との連携を強化しており、解体されそうな古民家を宿泊施設や、移住者の地域拠点に再生するプロジェクトを進めています。小学生向けの『古民家フォト甲子園』も好評で、次世代に文化を継ぐ大切な場になっています」


なんば建築工房の取り組み
―― なんば建築工房の今後の古民家への取り組みについて教えてください。
正田「創業138年、大工の技を現在まで継承しています。解体せざるを得ない古民家でも、梁や建具を古材ギャラリーにストックし、新築や店舗に再利用します。宿・飲食・オフィスなど利活用の実績も増え、職人の手仕事を未来へ“循環”させる仕組みづくりに力を入れています」
正田「古民家は単なる古い家ではありません。日本文化と先人の知恵が詰まった“地域の宝”です。安全性と快適性を確保しながら、文化価値を次世代へつなぐことが私たち工務店の使命だと考えています。倉敷や岡山で古民家再生を検討される方は、お気軽にご相談ください。購入前のご相談からアフターサポートまで、職人一同でお手伝いいたします」

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