買ってはいけない古民家【後編】〜その古民家、本当にカフェ開業できる?〜
倉敷市児島で創業139年を迎える老舗工務店、なんば建築工房。長きにわたり地域に根ざした家づくりを行ってきた同社には、古民家再生に特化した専門家が在籍しています。
前編では、古民家購入において建物の規模や雨漏り、シロアリ被害といった「建物の物理的な状態」に関する要注意ポイントを、なんば建築工房の正田社長に伺いました。
後編となる今回は、建物そのものではなく「法律やお金、インフラ」に関する落とし穴について深掘りします。田舎暮らしやカフェ開業を夢見て古民家を購入したものの、思わぬ壁にぶつかって後悔してしまうケースは少なくありません。引き続き、古民家鑑定士の視点から具体的な失敗例と、その対策を解説していただきます。
正田 順也 (まさだ じゅんや)
大阪生まれの奈良育ち。大学進学をきっかけに岡山へ移住し、住宅業界歴は30年超。
職人の伝統技術を活かすため、古民家再生・空き家利活用・地域づくりに力を入れている。
(一社)全国古民家再生協会岡山第一支部 代表理事
(一社)全国空き家アドバイザー協議会 岡山県倉敷支部 事務局長
町おこし団体 下津井シービレッジプロジェクト 事務局長
古民家鑑定士インストラクター ほか
買ってはいけない古民家の特徴④ 融資が受けられない
――前編で伺った3つの特徴に続き、買ってはいけない古民家の4つ目の特徴を教えてください。
正田「4つ目は融資が受けられない古民家です。地方の古民家の中には、100万円、200万円といった、まるで軽自動車を買うような感覚で購入できる安価な物件も存在します。そのため、とりあえず現金で物件だけを先に購入し、後から改修費用の融資を受けようとする方がいらっしゃいますが、ここに大きな落とし穴があります。いざリフォーム会社に見積もりを取って金融機関の審査を受けたものの、審査に落ちて融資が下りないというケースがあります。大前提として、物件を購入する前に、物件取得費用だけでなく再生費用(リノベーション費用)も含めたトータルでの融資審査を受けることが不可欠です」
――どのような理由で融資の審査に落ちてしまうのでしょうか。
正田「よくあるケースとして3つのパターンがあります」
- 仕事の状況による審査落ち
- 建物が違法状態
- 道路や敷地の権利関係の問題
正田「1つ目は仕事の状況による審査落ちです。都市部から地方へ移住して古民家を購入する方に多いのですが、移住のタイミングでこれまでの仕事を辞めてこられるケースがあります。当然ですが、現在仕事をしておらず安定した収入がない状態では、金融機関は融資をしてくれません」
正田「2つ目は建物が違法状態であることです。古民家あるあるなのですが、昭和の時代などに、行政の許可(建築確認申請)を取らずに勝手に増築をしてしまっている物件が存在します。金融機関は、そうした違法建築に対しては絶対に融資を行いませんし、担保としての価値も認めてくれません」
――もし購入した物件が違法状態だった場合、どうすれば融資を受けられるのでしょうか。
正田「融資を通すためには、その違法状態を解消する(適法に戻す)必要があります。増築部分を解体するなどして適法な状態に戻さなければならず、それに多額の解体費用がかかります。最悪の場合、もうどうしようもない状態になっていて、融資の道が完全に絶たれる物件もあります」
――3つ目のパターンを教えてください。
正田「3つ目は道路や敷地の権利関係の問題です。建築基準法では、家を建てるための敷地は規定の道路に接していなければならないというルール(接道義務)があります。この道路がないために再建築不可となっている物件があります。また、家に入るために通る道が他人の敷地(私道)になっているケースもあります。現金で買う分には自由ですが、こうした物件は金融機関から見て担保価値がゼロとみなされるため、融資の対象外となってしまいます」
――もし融資を受けられず、自己資金も足りなくなってしまったらどうなるのでしょうか。
正田「物件を買ったはいいものの、直すことも維持することもできず、途方に暮れて私のところへ相談に来られる方が実際にいらっしゃいます。いざ手放そうと思っても、売却自体に費用がかかりますし、そもそも違法状態や再建築不可の物件は、普通はなかなか買ってもらえません。安易に購入すると、後戻りできない状況に陥ってしまいます」
実際のケース〜用途地域やインフラの落とし穴〜
――購入後に思ったような活用ができなかったという事例もあるのでしょうか。
正田「はい、あります。実際の事例として、用途地域や市街化調整区域といった都市計画法の制限を見落としているケースがあります。カフェや宿泊施設など、お店をやりたくて古民家を購入したのに、実はそこがそういった事業を行ってはいけないエリアだった、という状況です」
――買ってから気づいたのでは遅いですよね。
正田「そうですね。カフェや宿泊施設にしようと建物を改修した後に実はここは営業してはいけない場所でしたと判明したら、それまでに費やした時間とお金がすべて台無しになってしまいます。だからこそ、購入前にどういう目的でこの物件を買うのかを専門家に伝え、それが法的に可能な場所なのかを必ず確認しなければなりません」
――その他に確認が必要なポイントはありますか。
正田「特に飲食店やカフェを開業しようと考えている方は、下水道が来ているかをしっかりと確認してください。田舎の物件で下水道が通っていない場合、生活排水を処理するために浄化槽を敷地に埋める必要があります。ここで注意しなければならないのは、一般の住宅と飲食店とでは、求められる浄化槽の規模(大きさ)が全く違うということです」
――どのくらい費用が変わるのでしょうか。
正田「個人の家向けの浄化槽とは異なり、飲食店用の大型の合併浄化槽を入れるとなると、400万円〜500万円以上かかることもあります。本格的な飲食店や、田舎のコンビニエンスストアレベルになると、浄化槽の設備だけで1000万円〜1500万円かかることも珍しくありません」
――そんなに高額になるのですね。
正田「実際にあった事例をお話しします。牛窓や下津井といった趣のある古い町並みで、古民家を買ってカフェをしたいという方がいらっしゃいました。しかし、そこは下水が来ていない地域でした。さらに、古い町並み特有の密集地で浄化槽を埋める場所がないのです。唯一空いている裏庭に設置しようとすると、前面道路から巨大なクレーンで浄化槽を吊り上げて裏庭に下ろさなければならず、その設置工事だけで800万円かかると判明しました。全体の予算が1000万円しかないのに、浄化槽だけで800万円もかかっては、建物の改修ができません。物販の店舗であればそこまでの設備は不要なのですが、飲食店となるとこうしたインフラの盲点が存在します。だからこそ、買う前にしっかりとした計画を立てることが必要なんです」
個人売買やDIYによるトラブル
――最近は空き家バンクなどを通じた「個人売買」や、自分たちで直す「DIY」も流行っていますが、これらについて注意すべき点はありますか。
正田「私は、個人売買はあまりおすすめしていません。田舎暮らしに憧れて地元の方から直接『あるよ』と紹介され、喜んで買ってしまうケースがありますが、これがトラブルの大きな元になります」
――どのようなトラブルが起こるのでしょうか。
正田「間に不動産取引のプロである宅建業者が入っていないため、先ほど申し上げたような用途地域の制限や、建物の深刻な傷み具合、そして増築等による違法状態の有無などを誰も客観的に説明してくれません。宅建業者が入っていれば『ここはこういう理由で違法状態ですよ』『建物の状態はこうですよ』という重要事項説明が必ずありますが、個人売買ではそうしたリスクを知らされないまま買ってしまうことになります」
――DIYについてはどうでしょうか。
正田「DIY自体は楽しいものですが、『やっていい部分』と『やってはいけない部分』の明確な線引きが必要です。外壁の塗装や土壁の塗り直し、床のフローリング張りなどを自分でやるのは問題ありません。しかし、建築基準法で定められた主要構造部分、具体的には、柱、土台、屋根の下地など、建物の耐震性や安全性に直結する部分は、必ずプロに任せてください」
――構造に関わる部分を素人がDIYで触ると、どのような危険がありますか。
正田「構造を理解せずに『邪魔だから』と抜いてはいけない柱や壁を抜いてしまい、著しく耐震性が落ちてしまう危険性があります。また、法律を無視してDIYで勝手に増築をしてしまい、知らず知らずのうちに建物を違法状態にしてしまうケースもあります。違法状態になると行政の許可が下りなくなりますし、特に店舗として不特定多数のお客様を招くのであれば、安全性は絶対に担保しておかなければなりません」
――知り合いの大工さんに直接工事を依頼するケースもあると思います。
正田「大工さんはいいよ、と作ってくれるかもしれませんが、現場の職人さんは必ずしも建築基準法などの法規制に精通しているわけではありません。大工さんが言われた通りに作った結果、それが法律に合致しておらず違法建築になってしまった場合、その責任は誰が負うのかというと、すべて依頼した側(施主)になります。後々困らないためにも、建築士や設計も行える工務店に全体を相談した上で進めた方がよいでしょう」
――古民家だけでなく、現代の家を購入した際にも注意すべき点はありますか?
正田「基本的には、古民家でも、現代の家でも大枠は同じです。ただ、昭和の時代に建てられたハウスメーカー製の築古住宅を購入した場合は注意が必要です。ハウスメーカーの家は特殊な構造躯体になっていることがあり、耐震に関わる部分の構造計算がすでに決まっているため、リビングと和室を繋げて広い空間にしたいといった間取り変更ができないケースがあります。その場合、表面的な内装リフォームしかできないことになります」
古民家を購入する前にプロに相談しよう!
――古民家や古い家を購入する前には、どんな人に相談するのが正解なのでしょうか。
正田「それぞれの分野の専門家に相談することが重要です。間違えやすいのが、不動産屋さんへの相談です。不動産屋さんは物件売買のプロであり、接道状況や用途地域、権利関係といった法的な見立ては得意ですが、建物自体のプロではありません。建物の傷み具合や、どのように改修できるかといった建物の見立ては苦手な分野です。ですから、建物に関しては設計士や、全国の古民家再生協会のような古民家に特化した専門機関に相談し、うまく役割分担をすることが大切です」
――なんば建築工房では、これから物件を探す方や改修を検討している方へ向けて、どのようにサポートされているのでしょうか。
正田「なんば建築工房では、後悔のない家づくりのために、しっかりとしたスケジュールと段階を踏んでご案内しています。まずは見学会です。実際の施工現場やモデルハウスを見ていただき、古い建物がどのように再生されるのか、耐震性や断熱性がどう変わるのかを体感していただきます」
正田「次にショールームツアーにご案内します。当社のショールームには、実際の古民家の部屋を再現したスペースや、柱や梁、断熱材、窓サッシなどの実物サンプルをご用意しています。そこで、リフォームとリノベーションの違いをご説明したり、なんば建築工房の特徴や職人の手仕事についてお伝えし、実際に見て触れて体感していただきます」
正田「当社の取り組みにご納得いただけましたら、現況調査(3.3万円・税込)に入ります。ここでは、建物の状態を見立てるだけでなく、予算感をすり合わせ、広い敷地であればどの建物を残して、どれを解体するかという配置計画を立てます。さらにはこの建物を10年後、20年後、30年後にどうしていきたいかという将来に向けた全体計画の方向性を一緒に決めていきます」
――単なる見積もりではなく、将来の計画から一緒に考えてもらえるのですね。
正田「家づくりにおいて最も大切なのは、最初のスタート地点で『大きく直すのか、小さく直すのか』『建て替えるのか、減築するのか』といった大きな方向性と予算感を間違えないことです。現況調査で方向性が定まってから、ようやく設計士が入り、詳細なプランニングや耐震診断といった本格的な設計申し込みへと進んでいきます。こうした手順を踏むことで、失敗のリスクを最小限に抑えることができるのです」
リノベーション、古民家再生のお問い合わせはなんば建築工房へ
まずはお気軽にご相談ください。
「実家を二世帯にしたい」「平屋化して将来に備えたい」「古民家を店舗に活用したい」――複数案を比較し、最適解を一緒に決めていきます。
なんば建築工房は、自社職人による確かな施工力と、古民家を含む難しい案件への対応力で、多くのお客様に選ばれてきました。住まいの将来に悩んでいる方、他社で断られた方も、ぜひ一度ご相談ください。
また、古民家再生総合調査(有料)も行っています。
なんば建築工房は、一般社団法人全国古民家再生協会(以下「古民家再生協会」)の会員です。古民家再生協会は、古民家で唯一の全国団体で、古民家鑑定士の有資格者が加入できます。所属しているリフォーム事業者の会員が古民家の調査(インスペクション)をおこない、古民家の状態を明確にし、再生に適した再築基準を用いて安全・安心で快適な暮らしを実現するために活動をしています。
お問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
または資料請求ページより、古民家再生の事例が載ったパンフレットをお届けいたします。