Vol.20 職人技術を遺さなければならない理由

古い家を解体してしまうことを、「もったいない」と言うのはなぜなのか。
古い家から学ぶ、心のこもったメッセージについて語ります。
四代目主人・難波 恭一郎のインタビューです。
2016年頃の古い映像ですが、参考資料として公開いたします。
文字起こしは意訳を含みます。ぜひ動画もお楽しみください。
[赤字] インタビュアー
[黒字] 難波会長
当然、壊して新しく建て直す方が早いと思うのですが、なぜ壊すのはもったいないと考えているのでしょうか?
私の言う「もったいない」とは、材木ももったいないんですけども、当時は材木はものすごく高くて、職人さんの日当は安かったんですよ。でも安いからこそ、職人さんは一生懸命きちっと仕事をしているんですね。丸太で木組みだっていって、馬鹿にしていたらいけないですよ。ものすごい仕事をしているんです。それを無くすのがもったいない。職人の技術が消えていくという。そういう意味でもったいない。僕は職人が好きなんです。
職人の技術が継承されなくなるからですか?
そうですね。50年なり100年なり経って、誰かがその家に住もうとすると。直そうかどうしようか悩みます。同じパターンですよね。そのときにその仕事の跡が残っているというのは、無言で教えてくれるんですよね。
私も、小学校2年の時、親父に死んだ爺さんの道具をもらって、5年、6年でもう大工してましたから。親父と一緒に近所の古い家へ入る。小屋裏に入ると、自然と木組みは覚える。木というのはこうやって組んでいるのかと。それで今がある。だからそういう家がなくなったら、職人は育ってこないんじゃないでしょうか。だから今のうちに今の若い職人にそういうものを教え込む、という意味でね。壊すんであれば大工の手で壊す。外して部材を使うということがあるじゃないですか。それはまたいいんですよ。
普通、古い家を解体するっていったら、機械で潰してしまう。材木を再利用するというのは、職人が解体して、綺麗に傷つけないように木をあてて、掛矢で叩いたり、栓を抜いて上手に外すわけですね。その外すという作業で、仕事がざっと見えるわけです。100年前にしていた仕事を外すことによって、100年ぶりに今まで見えなかったものが見えるわけですから。そこに職人の仕事の技があるわけですよね。木と木が合っている面が、本当にかんなをぴしっとかけているくらい、良い仕事をしてます。
今はノミでコンコン、見えない所だから別に良い、というような発想ですよね。だから、そういう意味で無言で教えてくれるわけです。それが無くなるというのはもったいない。
技術が分かる人がいなくなったらどうしますか?
必ずそれは育ってくると思うんですけどね。そういうことがわかってくれる世の中、それが大事なんですよと、それが気持ちが込もるということなんですよね。本当の意味での気持ちが。隠れたところまできちっとしていく。見えるところだけきちんとしていく、それは職人としてはやっちゃいけないこと。私に言わせてみれば、それは騙したということ。表面だけ綺麗なのではなく、中まできちっとしているということが、真心が込もるいうこと。表面が綺麗なのは当たり前じゃないですか。