林原美術館・東蔵ギャラリー落成式に参列して
―古民家の新たな命をつなぐ現代の耐震技術と職人の手仕事―**
11月12日。
林原美術館の東蔵ギャラリー工事の落成式にお招きいただきました。かつて当社なんば建築工房が耐震補強を担当した建物であり、今日この場に立ち会えたことは、建築に携わる者として何にも代えがたい喜びでした。
式典の会場に足を踏み入れた瞬間、梁や母屋の太い木組みが堂々と架かる空間の中に、静かで清らかな神事の設えがしつらえられており、伝統と現代性が調和した独特の緊張感に包まれていました。写真にもあるように、かつての蔵の骨格がしっかり残され、その上に新しいギャラリースペースとしての機能が見事に融合しています。
■ 古民家の耐震は「固める」ではなく「しなやかに受け流す」
古民家の耐震改修は、一般的な木造住宅の補強とは発想が異なります。
現代の建物は「揺れに耐える構造(耐震)」が基本ですが、古民家は柱・梁・貫の架構が柔らかく、揺れを受け流す「免震的な構造」を本来持っています。
そのため、古民家を強引に固めすぎると、かえって既存の木組みに無理な力が加わり、破損につながる場合があります。
大切なのは、
・建物が持つ柔らかさを残すこと
・不足する部分にだけ的確な補強を加えること
この二つのバランスです。
当社では東蔵の耐震工事にあたり、まずは
- 古民家鑑定
- 床下診断
- 耐震診断
をまとめて行う「古民家総合鑑定」を実施し、建物の弱点と長所を徹底的に洗い出しました。
その上で、必要な箇所にだけ
ダンパー(制振装置)や耐震壁を計画的に配置し、建物の個性を壊さず安全性を高める工法を採用しました。
■ 東蔵の木組みが物語る「百年の時間」
今回、落成式の控室として使われていた屋根裏空間に入った際、改めてこの蔵が歩んできた時間の深さを感じました。
太い梁には、長年の荷重や湿度変化と向き合ってきた証が刻まれ、節や割れ、色の変化までもが建物の歴史そのものです。
こうした構造材をできる限り活かしながら補強していくのが、古民家再生の最も難しく、そして最も価値ある部分です。
私たち職人は、新材にすべて置き換えることは簡単だと知っています。
しかし、それでは「文化」は残らない。
どれほど手間がかかっても、既存の木を活かしながら現代の性能を与えるという姿勢を、今回の工事でも貫きました。
■ ギャラリーとしての第二の人生へ
落成式では関係者の皆さまが真剣な表情で参列され、祈祷が進むにつれ、東蔵がまた新たな役割を担って歩み出す瞬間に立ち会っているという実感がこみ上げました。
蔵というのは元来「守る」ための建物です。
かつては財や道具を守り、時代とともに人々の暮らしを支えてきました。
今後は、
文化を守り、作品を守り、人々の心を豊かにするギャラリーとしての使命
を担っていくのでしょう。
その「第二の人生」を支える一部に、当社の技術と職人の手が関われたこと。
これは本当に誇らしいことです。
■ 一つでも多くの古民家を未来へ
倉敷・岡山にはまだまだ再生できる古民家が数多く残っています。
しかし、適切な診断や耐震補強がされず、解体されていく建物もまた少なくありません。
古民家を残すには、
・正しい鑑定
・根拠のある耐震計画
・職人の技術
・活用の場づくり
このすべてが必要です。
今回の東蔵ギャラリーのように、
「活用」されてこそ建物は守られ、次の世代につながっていきます。
私たちはこれからも、
一つでも多くの古民家が残り、地域の文化の器として息を吹き返していくよう、技術をさらに磨き続けていきます。
本日の落成式は、古民家再生に携わる者として大きな励みとなる一日でした。
この東蔵が、これから多くの人に愛され、美術館の新たな歴史を紡いでいくことを心より願っています。